クマ

クマ目撃情報多発:広島市内及び隣接市域でも(参考:秋田・十和利山熊襲撃事件)

投稿日:2018年6月30日 更新日:

2016年(平成28)は、全国各地でクマの出没が相次いだ。

実は20世紀末から、クマに関する人身事故が全国的に多発するようになっている。

今年(2017年)春になり、その傾向はますます強くなっている。秋田では人食いクマが話題となり、広島県でのクマ目撃情報も里山のみならず市街地にまで及んでいる。

クマの生息域で今何が起こっているのであろうか。

なお、2019年6月23日(令和1)、太田川右岸の瀬戸内海に面した鈴ヶ峰(広島市西区)でクマが目撃された。⇒ 2019年06月23日付け資料「ひろしま百山」(Akimasa Net)

十和利山熊襲撃事件(秋田県鹿角市)

秋田人食いクマ事件(十和利山熊襲撃事件)については下記書籍があり、クマとの関わり方について大いに考えさせられる。力作である。

米田一彦『人狩り熊』つり人社(2018年)

米田一彦(まいた・かずひこ)『人狩り熊』つり人社(2018年)、アマゾンKindle版

十和利山熊襲撃事件

2016年(平成28年)5月下旬から6月にかけて、秋田県鹿角市十和田大湯の十和利山山麓で発生したツキノワグマによる獣害事件。タケノコや山菜取りで入山した4人が死亡、4人が重軽傷を負った。記録に残るものでは本州史上最悪、日本史上でも3番目の被害を出した獣害事件と言われる。人を襲ったクマが複数存在すること、また食害したクマも複数存在する非常に稀な事例である。

米田p.1

(十和利山:とわりやま、鹿角市:かずのし)

米田は、同著冒頭で次のように述べて、自分の立ち位置を明らかにしている。

関係者は、この事件の対応に失敗し、加害グマの特定も行わず、また完全なる収束も見ず、騒動に幕を降ろしてしまった。
このままにしてはおかれない。

米田p.2

長年ツキノワグマに関わってきた研究者(NPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長)としての矜持。事件後、自ら現場に足を踏み入れてクマを個体識別し、その上で、遺族や関係者からの膨大な聞き取り資料を紡ぎ合わせながら、事の真相に迫った大作である。

クマはヒトを食べるか

ツキノワグマは、決して草食動物ではない。ブナの若葉や花芽あるいはドングリの実などだけを食べているわけではない。本来が雑食であり、動物の死体はごく普通に食べている。

米田は、「クマはヒトを食べるか」という点について、次のように述べている。

  • 全国の事故多発地域には攻撃性の強いクマの家系が存在すると思われる。p.186
  • 遺体を食餌と見なすようになったクマはまた人を襲う可能性が高い。p.204

米田は、秋田人食いクマ事件の4か所の現場の状況を綿密に検討した結果、主犯の雄グマは駆除されたものの、人食いクマが3頭生き残っていると判断している。そして、人食いを覚えたクマたちが再び事件を起こすことを恐れて、全て捕殺することを主張している。

米田は、普段からできる限りクマを殺さないことを信条としている。そうした米田にとって、人食いクマの捕殺は苦渋の決断であろう。こうして、ヒトが自然と接する機会が奪われていくことを憂えてもいるようである。

広島湾岸トレイル沿いの目撃情報

螺山(広島市安佐北区)にはクマ棚があるという

2017年6月4日(日)、私たち広島湾岸トレイル倶楽部の本隊(会員13名+一般参加7名)は、広島市安佐北区の里山(螺山~茶臼山)で、空き缶などのゴミ拾いを行った。

当日実施された、TC1000「広島湾岸トレイル協議会発足一周年記念行事 ― トレイルウォーク&クリーンアップ1,000人大会(略称:TC1000、ティーシーセン)」の一環として参加したのである。

その螺山では、クマ(ニホンツキノワグマ)が最近も目撃されているようである。先日(5月28日)、地元の方に聞いた話である。その方の言うには、少し離れた位置関係でクマとにらめっこになった。目をそらさずにいたらクマの方から去っていったという。なお、螺山の山中にクマ棚があるという話は以前聞いたことがある。

中国新聞記事に見る目撃情報

最近の中国新聞記事(2017年6月9日付け)は、「阿品台一帯クマ目撃相次ぐ、廿日市の団地 学校や公園付近も」と報じている。広島県西部にある海岸(瀬戸内海)近くのこの団地は、開かれて三十数年、一度もクマ情報などなかった地域である。(広島県廿日市市阿品台)

広島湾岸トレイル(極楽寺山~折敷畑山~船倉山)のラインよりも海側の話である。つまり、クマは湾岸トレイルの各里山を通って、西中国山地(広島・山口・島根県境尾根周辺)から侵入してくるものと思われる。広島湾岸トレイルを歩く場合にも、何らかのクマ対策を講じる必要がありそうだ。

付け加えるならば、同紙6月4日付け(2017年)記事では、広島市内の東区上温品でのクマ目撃情報を伝えている。

とにかく出合い頭の衝突を避けることが大切

米田は、ツキノワグマとの遭遇事故の確率について、通常はほとんどあり得ないとしている。

人々の膨大な入山数に対してクマによる事故の発生は稀で、まして食害を受ける確率はないに等しいのだ。現在ではクマ撃退スプレーがあればかなりの確率でクマの攻撃を防ぐことができるようになっている。現に私がそれを使って生き延びてきた証人だ。

米田p.230

ニホンツキノワグマの場合、一般的には「クマの方から積極的にヒトに危害を加えることはない」とされている。

ヒトとクマがお互いに余裕のある距離で出合った場合、事故になる確率は低い。一番怖いのは、出合い頭の衝突である。

クマの生息域に入る場合には、何はともあれ、クマと出会わないようにできる限り配慮することが大切である。自然の中でクマとヒトが共存していくにはそれしかない。

1)複数人で声を出しながら行動する

私は、かつて単独で西中国山地によく入っていた。その頃は、必ずクマ鈴を鳴らすようにしていたものである。クマに私の存在を知らせるためである。

ところが、最近のクマはクマよけ鈴の音に反応しない(逃げてくれない)とも言われている。「山中に道路ができてクマが人工音を聞く機会が増えた」(中国新聞記事2017年6月4日付け)ことが原因との指摘もある。

もちろん、歩行停止中に鈴は鳴らない。また、沢音などで鈴が聞こえないこともあるだろう。

秋田県自然保護課の担当者は、(やむを得ず)「山に入る場合は、鈴より人間の声が効果的なので、複数で入山して声を出してほしい」と呼びかけている。(同6月4日付け記事)

タケノコや山菜採りは合法

米田は、国有林内でのタケノコや山菜採りは合法だとして擁護している。

森林管理署は昔からの風習で山菜を取ることを許している、とするのは山間地では常識だ。(中略)「住民がクマの食べ物を盗んでいる」という訴えなら、全国でネマガリダケを100t、200t採ったところでクマの生活には全く影響は出ないと私は断言できる。

米田p.230

とは言うものの、入山者の証言(米田p.233)によれば、秋田のタケノコ(ネマガリダケ)採りの実態は次のようなものである。証言の一部を抜き出して箇条書きにしてみた。

  • 背丈が2mもある密生している笹薮に入る。
  • 5mも入ったら、もう方角が分からなくなる。
  • 2m先でもクマか人か分からん。

文字どおり藪の中を手探りで、タケノコ好きのクマと一緒になって作業をしているようである。クマと遭遇しやすい環境であることは間違いない。

こうした状況は、西中国山地や広島湾岸トレイルの通常の登山道を歩く場合とはかなり異なっている。

いずれにしても、クマと遭遇する可能性がある地域では、安全のため、場合によっては入山しないという選択肢があってもよいだろう。また、できる限り多人数で入山するに越したことはない。

2)一人離れるときが危険(万一のときはクマの目を見据えてにらみつける)

単独でのタケノコ採りやお花摘みで油断は禁物だろう。

もし万一クマと遭遇したら、まずはクマの目をじっと見据えることである。間違っても背中を見せて逃げてはいけない。

クマには走っているものを追いかけるという習性がある。また、クマ(四足)の方がヒト(二本足)よりも絶対的にスピードがある。追いかけられたら負けである。

なお、秋田人食いクマ事件では、至近距離(1~1.2m)で長時間(20分間)クマとにらみ合った末に生還した人物がいる。米田は本人から聞き取りをした上で、クマと至近距離で遭遇した時の対処方法について、次のようにまとめている。

至近距離でもクマから視線を逸らすと途端に襲いかかり、正対したら下がっている。

我々研究者がクマと出会ったら「背を向けず正対して睨みつけろ」と言っていることは正しい対応なのだ。

米田p.166

インターネット情報の中には、「目を合わせることなく、ゆっくり後ずさりするのがよい」とする意見もある。私としては、離れようもない至近距離でクマと対面した場合には、百戦錬磨の米田による“にらみ付ける”方法を取りたい、が果たして実行できるかどうか。

そうなる前に、まずはクマと遭遇しないよう配慮をすることである。

クマ問題に関する私の考え方の変化

ところで、最近クマが里に下りてくるのは、ヒトの食べ物の味が良くてそれを覚えたからとも言われている。実際、里で殺処分されたクマの栄養状態はかなり良いらしい。山での暮らしに困って(山の食糧が乏しくて)里に下りてくるばかりではなさそうだ。

ニホンツキノワグマに関して、私は次のような文章そのほかを書いている。かなりの書き直しが必要と考える。
⇒「クマは十方山・細見谷の王様」(初出:2007年10月『細見谷渓畔林と十方山林道』、アマゾンKindle版有り)


山本明正『細見谷渓畔林と十方山林道』アマゾンKindle版(2017年3月6日)は、自費出版『細見谷渓畔林と十方山林道』(2007年10月)をほぼそのまま電子化したものである。

つまり、上記書籍では、私のクマに関する認識は2007年10月当時のままとなっている。西中国山地の豊かな落葉広葉樹の森を守ることができれば、クマがわざわざ人里に出てくる必要は無い、という考えである。

これに対して、現在の私の考え方は、下記電子書籍のとおり変化している。


山本明正『クマは人を食うか~日本列島1万頭のクマはどこへ行く~』アマゾンKindle版(最新版2017/12/10刷)

中山間地の崩壊によって里山が森と化し、クマの生息域は一気に都会まで広がってきている。そしてついに、太田川右岸の瀬戸内海に面した鈴ヶ峰(広島市西区)でクマが目撃される事態になってきた。

参考資料

山本明正『クマは人を食うか~日本列島1万頭のクマはどこへ行く~』アマゾンKindle版(最新版2017/12/10刷)
中国新聞記事「クマよけ鈴 過信は禁物、秋田県のクマ襲撃による死者(図)など」(2017年6月4日付け)
中国新聞記事「阿品台一帯クマ目撃相次ぐ、廿日市の団地 学校や公園付近も」(2017年6月9日付け)
広島湾岸トレイル協議会発足一周年記念行事(TC1000、ティーシーセン)ひろしま百山(Akimasa Net)より
山本明正『細見谷渓畔林と十方山林道』自費出版(2007年10月)⇒アマゾンKindle版有り(最新版2017年3月)
「クマは十方山・細見谷の王様」細見谷渓畔林と十方山林道(Akimasa Net)より

米田一彦『熊が人を襲うとき』つり人社(2017年)

米田一彦(まいた・かずひこ)『熊が人を襲うとき』つり人社(2017年)、アマゾンKindle版

以下、当Web作者としての私が気になった文章を抜き出してみた。

私はクマを追って46年になる。クマの多い森ばかり歩き回り、数知れずクマに出会い、襲われること8回、威嚇攻撃は3回。p.2

クマは殺戮(さつりく)志向の動物でもなく、ぬいぐるみのように無害な動物でもない。p.26

私は古い事故記事を集めるためにクマが生息する県の図書館に通い、地元紙の朝夕刊やマイクロフィルムを、クマの活動期に当たる4月1日から11月31日まで繰った。p.16

明治後期から平成期までのクマの狩猟と駆除の事故は含まず、自然状態で「クマに襲われた」事故の総数は私の調べでは1993件(2255人)あった。p.17

ほとんどは襲われるべくして襲われていた。p.2

1922年(大正11)以降、クマに襲われて死亡した人は52人だ。p.27

-クマ

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

no image

クマは十方山・細見谷の王様

2016年(平成28)、全国各地でクマの出没が相次いでいる。その範囲は、里山のみならず市街地にまで及んでいる。クマの生息域で何が起こっているのであろうか。私は既に10年前、自著『細見谷渓畔林と十方山林 …